この記事で分かること
- 有価証券報告書の総会前開示ってなに?
- 有報の総会前開示による投資家への影響
- 有報の総会前開示による上場企業への影響
こんにちは。3歳&1歳姉妹のママ、ぽこです。
GWはみなさんはいかがお過ごしでしょうか。
私は朝から子どもたちのおしっこで漏れたパジャマを洗い、次女のお昼寝布団を洗い、長女の上靴を洗い、と洗濯三昧なGWがスタートしました。
今日はおしごとに関わるトピックスとして、ちょっとだけ時事ネタを。
2025/3/28、加藤勝信金融相が、全上場会社に対し株主総会の開催日よりも前に有価証券報告書を開示するよう要請することを発表し、かなり話題になりました。
全上場企業「株主総会前に有報開示を」 金融相が表明
加藤勝信金融相は28日午前の閣議後の記者会見で、国内のすべての上場企業約4000社に対し、人的資本などといった企業の非財務状況も記載した有価証券報告書(有報)を株主総会の開催日よりも前に提出・開示するよう要請すると発表した。
加藤氏は会見で「実務上の課題はあるが、適切な情報提供に向けての第一歩だ」と述べた。有報の開示を前日から数日前にするよう求める。(後略)
出典:全上場企業「株主総会前に有報開示を」 金融相が表明 日本経済新聞 2025-03-28、日経電子版、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB280IU0Y5A320C2000000/、(参照 2025-03-28)
有価証券報告書の総会前開示とは?
即本題に入ります。有価証券報告書の総会前開示ってなに?ということですが、
文字通り「有価証券報告書を定時株主総会前に開示すること」です。

ゆうかしょうけんほうこくしょ?
子育てママ・パパの普段の日常生活ではあまり聞き馴染みがないワードかもしれません。
有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)は、証券取引所に上場する会社などが、決算期中や期末日時点での決算情報や企業情報を記載する報告書のことです。
正確には、以下日本証券取引所サイトのとおりです。
有価証券報告書(ゆうかしょうけんほうこくしょ)
上場会社、店頭登録会社、有価証券届出書提出会社、その他過去5年間において事業年度末日時点の株主数が1,000人以上となったことがある有価証券の発行者が、金融商品取引法(第24条)に基づき、各事業年度終了後3か月以内に内閣総理大臣への提出を義務づけられている書類のことをいいます。
企業の概況、事業の状況、経理の状況等の、投資判断に資するような様々な企業情報が記載されています。
なお、金融庁がインターネットを利用して広く一般に提供するEDINET(金融庁による有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通じて閲覧が可能です。出典:日本取引所グループ「用語集」https://www.jpx.co.jp/glossary/ya/446.html
東京証券取引所の東証マネ部「有価証券報告書とは法律で提出が義務づけられた書類!従業員の平均年収の確認も可能」でも、分かりやすく説明されているので、初めての方はおすすめ◎
投資をしているママ・パパの中には知っている方もいるかと思いますが、投資家の投資判断などに利用される書類です。
この有価証券報告書(以降有報)は、現状、毎年決算を締めてから3ヶ月以内に開催される定時株主総会の開催日、もしくは翌営業日に開示することが一般的ですが、これを株主総会開催日より前に開示するように求められている、ということです。
有報の総会前開示による投資家への影響

なんで株主総会前に有報の開示が必要なの?
一言で言うと、有報は投資家にとって、株主総会で議決権を行使する際に有用な情報が豊富に掲載されているからです。有報が総会前に開示されると、開示情報がほしい投資家にとっては大きなメリットです。
現状、招集通知の事業報告や計算書類は、株主総会で議決権を行使する際の判断資料としては情報が不足しているとの声があります。
例えば
- 経営計画の情報は事業報告では単年度のみ、有報には経営理念や中長期的経営計画の記載がある
- 事業報告にはサステナビリティ開示や政策保有株関係の記載がない、コーポレートガバナンスについては取締役会の活動状況の開示もないが、有報にはある
- 計算書類のキャッシュフローに関する情報や注記がないが、有報にはある
- 会社法監査の監査報告書にKAMがないが、有報にはある
総会前開示の有用性について
(前略)●総会は取締役の選任が行われる場所であり、企業と投資家にとって一番大事なイベントであるべき。その際の判断資料である事業報告と計算書類は、有用性という観点で十分ではない。例えば、以下のとおり。
- 投資家にとって重要な情報である経営計画については、事業報告では単年度の記載に留まっているが、有報には経営理念や中長期的経営計画の記載があり、有用な開示内容となっている。
- また、事業報告にはサステナビリティ開示や政策保有株関係が無く、肝心のコーポレートガバナンスについては、取締役会の活動状況の開示も無い。
- 計算書類にはキャッシュフローに関する情報や注記が無い。例えば、国際会計基準では、日本でいう特別損益である「その他の営業費用」の内訳がなく、営業利益の約7割の損が当該項目で出ているのに説明が無い会社もあった。
- 会社法監査の監査報告書にKAM(監査上の主要な検討事項)がないため、日本の監査が中途半端なのかとまで言う海外投資家もいる。(後略)
出典:第2回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会(2025年3月18日)事務局説明資料3頁、https://www.fsa.go.jp/singi/sokaimaekaiji/siryou/20250318/siryou.pdf
また今回の要請は、特に海外の機関投資家からの要望を受けたもので、この要望に応えることで、海外からの資金を日本市場に呼び込むことも期待されています。
(前略)要請文で、有報は「投資家が意思を決定するにあたって有用な情報が豊富に含まれている」と指摘した。「上場会社は投資家が株主総会の前に有報を確認できるよう、できる限り配慮することが望ましい」と要請した。
海外の機関投資家を中心に、株主総会前に有報を読み込みたいという要望が強まっている。株主総会の招集通知には、議決権行使や投資判断に影響を与えると考えられる連結ベースの役員報酬や政策保有株の状況、人的資本などの非財務情報は含まれないためだ。(後略)
出典:全上場企業「株主総会前に有報開示を」 金融相が表明 日本経済新聞 2025-03-28、日経電子版、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB280IU0Y5A320C2000000/、(参照 2025-05-03)
金融相、有価証券報告書の総会前開示を要請へ 海外投資家の要望で
加藤勝信金融相は28日、定時株主総会後に提出されることが多い有価証券報告書(有報)について、株主総会前に開示するよう全上場企業に要請する。有報の早期開示を求める海外投資家の要望にこたえ、海外マネーの呼び込みにつなげたい考えだ。(後略)
出典:金融相、有価証券報告書の総会前開示を要請へ 海外投資家の要望で 朝日新聞 2025-03-27、朝日新聞デジタル、https://www.asahi.com/articles/AST3W3HCZT3WULFA022M.html、(参照 2025-05-03)

日本以外の国では総会前に開示してるの?
海外(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)の上場企業は、企業ごとに違いはあるものの、どこも株主の議決権行使の判断に利用できるよう、株主総会前に有報を開示しています。
諸外国における年次報告書の開示と株主総会の開催の状況
諸外国では、株主総会前に年次報告書が提出され、株主の議決権行使の判断に利用されている。
出典:第1回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会(2024年12月20日)事務局説明資料10頁、https://www.fsa.go.jp/singi/sokaimaekaiji/siryou/20241220/siryou.pdf
日本だけが総会後に有報を開示している状況を鑑みると、日本の上場会社株式を保有する海外投資家から、有報の総会前開示を求める声が出るのも理解はできます。
有報の総会前開示による上場企業への影響

日本の上場企業にとっては、開示までの期間がタイトになって開示作業が大変になるばっかりじゃない?
- 株主との対話の促進
- 有報と招集通知(事業報告)の一体開示による作成コストの低減
- グローバル水準に対応することで海外投資家からの評価向上につながる
など金融庁の資料では総会前開示のメリットはいくつも挙げられているものの、上場企業側は総会日を遅らせてまで総会前に開示することにメリットを感じられず、乖離がある状況です。
総会前開示を実施することの主な利点
- 総会前に有報を開示することにより、開示の質と適時性が高まり、投資家との質の高い対話の促進が図られる。さらに、こうした対話を踏まえることで、形式的な議決権行使基準に縛られない正確な評価に基づく議決権行使に繋がるという利点がある。
- 株主総会から3週間以上前に開示することで、有報と事業報告等の一体開示が可能となり、開示書類の作成コスト総量が低減する。
- また、日本の資本市場全体としても、グローバル水準への対応による海外投資家等からの評価向上に繋がると考えられる。
- 加えて、決算期又は議決権基準日を変更して総会前開示を実施する場合、株主総会開催時期の分散化にも繋がる。
出典:第2回 有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会(2025年3月18日)事務局説明資料10頁、https://www.fsa.go.jp/singi/sokaimaekaiji/siryou/20250318/siryou.pdf

上場企業の開示担当の人は実際どう思ってるのかな

私が開示担当者だったら面倒だわ〜って言ってると思う
私の担当先(関西の上場会社20社くらい)の開示担当者の話を聞いていると、「総会数日前くらいなら、実務上ほぼ完成しているので対応可能だが、2〜3週間前に開示となると、監査対応含め社内フローを大きく変える必要があるので、すぐの対応は難しい」といった声が多かったです。
有報の記載事項が年々多様化し、作業が複雑化することで、監査法人とのやり取りや社内調整も煩雑になっており、その中で総会前開示するとなると、そのすべての工程で見直しが必要になるし、それでも間に合わない場合には、開示作業の自動化システムを導入したり開示作業をアウトソースする必要が出てきたりと、負担が前述のメリットを上回らない会社が多く、総会前開示の大きな課題になっています。
金融庁としては、段階的に海外投資家の求める総会3週間前開示を進めたい意向なので、引き続き動向を注目していきたいですね。
まとめ
今日の話は、子育てママ・パパにお得な話ではなかったですが
子育てや便利グッズ以外のこともたまには考えてるよということで
以上、最近のおしごとでのホットなトピックスでした
またね〜